大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

富山地方裁判所魚津支部 昭和46年(ワ)6号 判決

原告 福田ケイ

被告 国

訴訟代理人 宮竹信也 清水洋 ほか四名

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  申立

原告は「被告は原告に対し八七万〇〇二四円およびこれに対する昭和四六年二月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および保証を条件とする仮執行の宣言を求め、

被告は主文同旨の判決を求め、敗訴の場合の仮執行免脱の宣言を求めた。

二  原告の主張

1  原告は昭和四五・六年当時岱明運送の商号を用いて一般区域貨物自動車運送事業を営んでいたものである。

昭和四五年一二月一四日午前五時三〇分頃原告方従業員勝隆が原告方業務のため原告所有の普通貨物自動車(熊一い二六-二九)を運転して国道八号線を富山市方面から長野市方面に向けて時速約五〇キロメートルの速度で進行中、富山県下新川郡朝日町境一二〇一番地先路上に差しかかつた際折柄右道路センターライン沿いに消雪装置埋設工事のため掘削されていた巾四〇センチメートル・深さ三五ないし四五センチメートル・長さ二六メートル・の溝の中央部付近(西端から一三・三メートル東端から一二・七メートルの地点)に自車右側前部車輪が落輪し、その衝撃で運転者の勝は一時脳震盪の症状を起して運転の自由を失ないほぼ同一の速度で約一四〇メートル進行して道路左側の前川正三郎方家屋前面およびその前の電柱に衝突した。

2  本件事故現場は国道八号線道路上であり右道路の設置管理責任者は被告であるところ本件事故の発生は次のとおり被告の右道路に対する設置管理に瑕疵あることによつたものであり被告は国家賠償法二条一項により責任を負う。

本件道路はアスフアルト舖装された巾員六・五メートルの道路であるところ、本件事故当時本件事故現場は長さ二六メートルにわたつて巾四〇センチメートル・深さ三五ないし四五センチメートルの溝が掘削されており道路通行上非常に危険な状態にあり道路が通常備えるべき安全性を全く欠いていた、従つて被告は右道路の安全性を確保するための必要かつ適切な措置を講ずべきであつたのに本件事故発生時にはこれがなされていなかつた。

仮りに被告が主張するように標示板・赤ランプが設置されていたとしても、右標示板は夜間通行する車両にとつては見づらいものであり、右赤ランプは本件事故発生時一部破損し存在しなかつたのであるから道路の安全性を確保するための必要かつ適切な措置が講ぜられていたとはいえない。

3  本件事故により原告が蒙つた損害は次のとおりである。

(一)  車両修理費および富山県内における積込陸送費 二九万九六七〇円

本件事故により破損した前記車両の修理のために要した費用と富山県内における陸送費用の合計額。

(二)  富山県から熊本県までの陸送費用 一〇万円

本件事故により破損し運行不能となつた前記車両を富山県から熊本県まで陸送するために要した費用。

(三)  休業損害(休車損害) 三九万〇三五四円

原告は本件事故により破損し運行不能となつた前記車両を昭和四五年一二月一四日から昭和四六年一月一五日までの三三日間修理のため入庫することを余儀なくされその間右の額の損害を蒙つた。

四  弁護士費用 八万円

被告に任意支払の意思がないので弁護士に委任して本訴を提起したことによる費用。

原告は被告に対し以上合計八七万〇〇二四円およびこれに対する昭和四六年二月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

4 被告の過失相殺の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告主張1の事実中勝隆の運転する貨物自動車が前川正三郎所有家屋の前部に接触破損し電柱にあたつて停止する事故があつたこと、右現場近くに道路センターライン沿いに事故現場から西側約一一八メートルの個所に東端を有し東西長さ二六メートル、巾四〇センチメートル、深さ四五センチメートルの消雪装置埋設工事により掘削した溝が存在したことは認め、その余の点は争う。

原告主張2の事実中本件事故現場が国道八号線道路上であること、右道路はアスフアルト舗装された巾員六・五メートルの道路であること、本件事故当時事故現場付近に原告主張のような溝が掘削されていたことは認めその余の点は争う。

被告は本件工事の施工に伴い道路交通の安全を考慮し若栗土建工業株式会社に、工事区間の起終点の両端から一〇メートルの地点に巾一・一メートル、高さ一・四メートルの「工事中」と表示した標示板を、二〇メートルの地点には巾〇・九二メートル、高さ一・三五メートルの「工事の協力依頼」を表示した標示板を、三〇メートルおよび五〇メートルの地点に、〇・四五メートル四方の「工事中」の道路標識を、一〇〇メートル・二〇〇メートル・三〇〇メートルの各地点に巾〇・八メートル、高さ一・二メートルの「この先工事中」の工事標識等を設置させ、本件工事の全域にわたり三メートルから五メートルの間隔で地上六〇センチメートルの高さに赤ランプ七〇個を設置させていた。さらに赤ランプ等を設置した西側先端には一八〇リツトル入りドラム罐を設置しそれに地上高一・三メートル、巾三八センチ、高さ七三センチの「徐行」の標示板をつけるとともにその前面中央に点滅灯を置きその左右には赤ランプを一灯宛配置した。

しかるに本件事故直前に第三者の行為により破壊されその通報もなかつたもので道路管理者としてはそれを知る時間的余裕も全くなく補修することは不可能であり管理の瑕疵とは言えないこと明白である。

なお原告は勝隆が本件工事中の溝に右前輪を落し入れたと主張するがその落輪の事実はないので本件事故と消雪パイプ埋設工事溝とは何ら因果関係はない。

2  仮りに被告に賠償義務があるとしても勝隆にも道路標識・道路上の障害物の存在に注視し、交通の危険を未然に防止すべき注意義務があるのに漫然走行したため本件事故を惹起した点に過失があり過失相殺されるべきである。

四  証拠〈省略〉

理由

一  昭和四五年一二月一四日午前五時三〇分頃勝隆運転の貨物自動車が前川正三郎方家屋の前部に接触破損し電柱にあたつて停止する事故があつたこと、右付近道路の道路センターライン沿いに事故現場から約一一八メートルの地点に東端を有し東西長さ二六メートル、巾四〇センチメートル、深さ四五センチメートルの消雪装置埋設工事に掘削した溝が存在したこと、同所が国道八号線上であること、右道路がアスフアルト舗装された巾員六・五メートルの道路であることは当事者間に争がない。

〈証拠省略〉によると、勝隆は昭和四五年一二月一四日午前五時三〇分頃右トラツクを運転して右事故現場付近を富山方面から新潟方面に向け進行していたこと、当時同所には前記の溝が掘削されていたが同人は気がつかないで走行したこと、同人はその溝に車輪を落しそのため運転の自由を失つたまま走行して前川正三郎方に突込んだことを認めることができる。

〈証拠省略〉を総合すると、被告は本件消雪装置埋設工事を若栗土建工業株式会社に請負わせたこと、被告と若栗土建との協議に基づき工事区間の起終点の両端から一〇メートルの地点に巾一・一メートル、高さ一・四メートルの「工事中」と表示した標示板を、二〇メートルの地点には巾〇・九二メートル、高さ一・三五メートルの工事の協力依頼を表示した標示板を設けたこと、三〇メートルおよび五〇メートルの地点に〇・四五メートル四方の「工事中」の道路標識を設置し、一〇〇メートル、二〇〇メートル、三〇〇メートルの各地点に巾〇・八メートル、高さ一・二メートルの「この先工事中」とした標識を設置したこと、本件工事の全域にわたり地上高九〇ないし一二〇センチメートルの鉄筋を埋込みその上部に安全ロープを巻きつけさらに電線をその鉄筋に巻きつけ全区間を千鳥に三ないし五メートルの間隔で地上六〇センチメートル高に赤ランプ七〇個を設置したこと、その西側先端に一八〇リツトル入りのドラム罐を設置しそれに地上高一・三メートル、巾三八センチメートル、高さ七三センチメートルの「徐行」とした標示板をつけその前面中央に点滅灯を置きその左右に赤ランプを一灯宛配置したこと、本件事故の二・三時間前に同所を通過した自動車により溝付近の工事標識板は倒され、赤色灯が消えていたことを認めることができる。

二  右の事実関係によると本件事故発生当時国道である本件道路の安全性が欠如していたものといわざるを得ないが、それは夜間しかも事故発生の直前に先行した他車によつて惹起されたものであり時間的に被告において遅滞なくこれを原状に復し道路を安全良好な状態に保つことは不可能であつたというべく、このような状況のもとにおいては被告の道路管理に瑕疵がなかつたものと認めるのが相当である。

右にみたように被告は本件事故に基づく損害賠償の義務を負わない。

三  よつて原告の本訴請求は失当として棄却すべきであり、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 糟谷邦彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例